「護られなかった者たちへ」ネタバレ感想(小説版)

映画化もされた社会派ミステリーの本作では、生活保護制度を題材に、大きな喪失を味わった者の苦しみや、貧困を抱えた人間の尊厳が描かれている。やや入り込めない部分はあったものの、フィクション小説という形態だからこそ生活保護や貧困の痛みが心に残った。

犯人像はもう少し描写が欲しかった

手足を拘束され、餓死した被害者が連続して発見されるところから物語は始まる。目を背けたくなるくらい凄惨…被害者の視点で描写されてたら怖くて読めなかったかも。

犯人の動機も徐々に明かされていくのだけど、そこから2人も殺すのは飛躍し過ぎだろうという感覚が最後まで拭えず、どこか同情心を抱えてしまう刑事の心情には共感しきれなかった。

通常なら殺人にまで至らない、という飛躍を埋めるだけの心情描写が欲しかった。

生活保護受給者の「現実」

しかし、題材となった生活保護についての描写はとても良かった。

本作はドキュメントではなく、フィクション小説ではあるが、生活保護を受けた結果子どもが十分に教育を受けられないやるせなさや、不正受給者のふてぶてしさ、申請をためらう人の事情などは現実と大差ないものだろう。自己責任論では片づけられない社会の歪みが感じられた。

善人たちの罪

被害者たちは、真面目で殺されるような理由が見当たらない人物だった。悪人が裏の顔を持っていたというよりは、生活保護制度に冷たい社会のルールに従って行動した結果、恨みをかうことになったのかな、と受け止めている。

本作での被害者と同様のことをしている人なんていくらでもいるだろう。私自身も、どこかに生活保護受給者へのさげすみや、できれば関わりたくないという偏見があるのではないか。そのように内省させられる作品だった。