だんドーン:第三十一話「薩摩の腹の内」感想―目の光が消えてしまった

毎週毎週面白いしあれこれ考えさせられるので、コミックスでまとめて読んでからじゃなくて、初読みの時の感想を残しておきたい!と思わせるだんドーン。今回も重かった。

桜田門を離れても地獄

仲間の挙兵を信じていたのに、徐々におかしいな?と感じる出来事が続き、20日かけて帰郷した後に切腹命令が下される有村家の次男坊。惨い。

有村長男の感情を押し殺しきれない表情も壮絶。

切腹切腹!と笑っていたあの頃を返してほしい。

出典:【だんドーン(1)】第七話「今日も男と女がすれ違う」

川路の目が真っ黒

本当は優しい人間なのに

川路の目からもすっかり光が失われてしまった。

次男坊を死なせたくないに決まっているが、小松が言うところの「心清き目の綺麗か奴」ではない川路は藩を守る道が見えてしまっているがゆえに非情な仕事を果たそうとしている。

第一話では、彦根藩への内通を疑ったことを呑兵衛の女将さんに責められ、傷ついたよね、と西郷にフォローされている。本質的には人を傷つけたくない川路が、仲間を見殺しにせざるを得ず、私情を殺して公益を優先しなければならないのは気の毒だ。このあたり、人の命を軽んじているような態度をとりつづけるタカとは違う。苦しい境遇で人を信頼せず育ってきたタカに対し、少年時代に出会った斉彬の温かさに忠義を尽くそうと決めた川路は、同じように私情を殺していても、人格の根っこにあるものが違うのだ。

出典:【だんドーン(1)】第一話「照国の待望」

ここで西郷がさらっと川路の心を洞察しているが、第一話の中でも目立つシーンだ。空気が読めず、そこまで賢いわけではないとさんざん強調されている西郷が人の心に入り込むさまを示している。

切腹を命じる側の様子も人それぞれ

苦しみながら役割を果たそうとする川路に対し、小松は次男坊への処遇に迷いを見せていない。それなりの同情心はあるだろうけど。体が弱くてどうせ長く生きられないと、死を身近に感じてきた彼は人の生死から一歩引いた態度を示している。大久保も号泣しながらも切腹してくれと頼みこむ。各人物の態度の違いも面白い。

それでも下ネタ!

そんな苦しい回だったが、月岡芳年のとんでもない下ネタに笑わされもした。泰三子作品って下ネタがなくても成り立つけれど、下ネタのないハコヅメもだんドーンも考えられない…

ほんとに面白いので、身の回りに読んでいる人は皆無だけど、もっとヒットしますように。(コミックスは発売即重版だそうだから、売れてるんだろうけど…)